評価すること

院試向けに微積分の復習をしています.
Stirling's approximation(スターリングの公式)

は,n!を近似で評価しようというものです.
階乗はnがそれほど大きくなくてもすぐ発散してしまうので
計算が難しいです.ですから
比較的手に追える式に落としこんで評価することが
できると嬉しいことが多い…ハズデス.
スターリングの公式の肝は,
logxという関数の積分の評価です.
ざっくりと天下り式な証明を紹介します.
スターリングの公式を導くにはウォリスの公式を使う形に
なんとしても持っていくという方針に従えば
証明を見失うことはないと思います.
天下り的に次の数列の評価を行います

この数列は(n!)をn^(n+1/2)*e^(-n)で評価することを考えて出てきます.
この時,

であり,

を利用してやると,

を得ます.
ここで更に二つの数列a_n,b_nを次のように定義してやります.

a_n < b_n
であり,
d_n -d_(n+1)の不等式評価より,
a_1 < a_2 < a_3 < ... < a_n < ... < b_n < ... < b_1
を得る.
ここで,
b_n = a_n * exp(1/12n)なので
b_n - a_n -> 0(n -> 0)である.
よってカントールの公理より二つの数列は収束することになる.
ここで,a_n,b_nの収束性より0<θ<1となるθを用いて

と表せる.
ここまで来たらウォリスの公式

にαの式を代入してやって,
α=1を得る.
ゆえに,b_nの収束値がαであることから,
スターリングの公式を得る.
うはぁ…結構厳しいのね.

確率論ではそこそこ使われたりするので覚えておいて損はないかも…

ちなみにこの評価の相対誤差は,
(1-exp(-1/12n))です.(上の評価式から直ちに導けます.)

2010/3/15の日記の転載:Brachistochrone curve

つい先日お台場にあるPanasonicセンター東京内のRisuPiaに行った際に,
「決まった二点間で曲線に沿ってものを落とした時に
最下点まで一番早く到達する曲線は何か?」
という問題に出くわしました.
答えはあまりなじみのない曲線に行きつくのですが,
変分法を用いて導き出すことができます。
便宜上二点間をA(0,0)B(x,y)ただしy>0と置く.
xの関数yの汎関数I[y]が極値を取る場合に
オイラーラグランジュ方程式を満たすことを思い出します.
この場合の汎関数はAからBまでかかる時間として、
時間がs(曲線の長さ)/v(速度)を積分したもので与えらるので,

と表わされます.
ここでv(x,y)はエネルギー保存則よりyの関数として与えられます.
この積分の中のFをオイラーラグランジュ方程式に代入して解いていきます.
Fがxに陽に依存しないために,
オイラーラグランジュ方程式は簡単になって,次のように解けます.
上の式の前半はベルトラミの定理というもので,
Fがxに陽に依存しない場合に
オイラーラグランジュ方程式が簡単になるので比較的有効な手段です.
下の微分方程式を満たす曲線が求めるべき曲線ですが,
これはサイクロイドと呼ばれる曲線の満たす微分方程式となります.
サイクロイドは媒介変数で表わされる曲線で,θを媒介変数とすると,
という風に表わせます.
この曲線が最速降下曲線となるのですが,
実はサイクロイドには面白い性質があり,
どこから落としても最下点に辿り着く時間は一定となります.
東京大阪間がだいたい400kmとして,
一番初めのT[y]の式を解くと,

ここでAは定数で2Aπ=xで
東京大阪間に摩擦の無いサイクロイド型のトンネルを作ったならば,
約500秒(8.3分)で東京まで着くことになります.
この時最下点での物体の速度はエネルギー保存則より
約1.6[km/s]ということになり,
海面上で気温15℃の時に音速が340[m/s]なので
音速の4倍以上ということになります.
もともと上記の問題は
手元のE.ハイラー/G.ヴェンナーの[解析教程]

解析教程〈上〉

解析教程〈上〉

によると
ヨハン・ベルヌーイがコンテストとして公に提示した問題で、
締め切りまでには多数の解答が寄せられたそうですが,
自らの解答が最もエレガントだったそうです.
その方法はフェルマーの原理のアナロジーを利用するというものでした。
それは速さが物体の速さがv=sqrt(2gy)で与えられるような層を
いくつも考えるというものでした.
ところで、このヨハン・ベルヌーイという人は
天下のベルヌーイ一族の中でもくせものだったらしく,
微分についてのニュートンVSライプニッツ論争が起こっている際には
率先してライプニッツに加担したり,
兄のヤコブ・ベルヌーイとは常に衝突ばかり.
挙句の果てには息子のダニエル・ベルヌーイの業績を盗もうとしたとか.
もちろん何が真実で何が嘘なのかは今となっては分かりませんが,
天才にはスキャンダルやルーマーはつきものですね。
ところで,抵抗・摩擦を含めた際の最速降下曲線はどんな形になるのでしょうか?
気になるところですね.

周期性

数学オリンピック予選問題(2000年1月10日)
[40C20(Cはコンビネーションを表す)を41 で割った余りを求めよ]
というシンプルな問題.
今朝解いて面白かったので掲載.
手に負えなそうな数が出てきた場合は身近なところから計算してみると
答えにたどりつきやすいかも?
40C0 = 1 は41で割ると1
40C1 = 40は41で割ると40
40C2 = 780は41で割ると1
40C3 = 9880は41で割ると40
この辺で不思議な周期性に気づくと解答に近づく(と個人的に思います)
コンビネーションの性質
nCm = (n-1)Cm + (n-1)C(m-1)を思い出すと,
41C1 = 40C0+40C1
41C2 = 40C1+40C2

41C20 = 40C19+40C20

ところで41Cn(nは1以上40以下)は41で割りきれるので
この周期が出てくる.つまり40C0 = 1 mod 41なので
40Cnを41で割った数の列は隣同士足した数が41で割り切れなければなりません.
この数列は初項が1なのでこの数列は
{1,40,1,40,1,40,…}という形になり,
従って答えは1となります.

注:41Cnが41で割り切れるというものは一般のp(素数)に対して
示すことができます.
rを1≦r≦p-1となる自然数とすると
r * pCr = p * (p-1)C(r-1)
より右辺がpで割りきれ,rはpで割り切れないために
pCrはpで割り切れなければならない.
つまり,この性質により,
一般の素数pに対して(p-1)Cr mod p が分かります.

注:n mod mとは,nをmで割った時の余りを表します.

春の夕方の夢

可除環Rの全行列環Mが単純であるというお話.
簡単のために二次正方行列にして示す.
(a,b;c,d)がイデアルに含まれるならば,
(1,1;1,1)を両側から掛けた行列もそのイデアルに含まれるので、
α(1,1;1,1)∈J(全行列環のイデアル)
α=a+b+c+dとなる.

イデアルの性質から
(α+β)(1,1;1,1)∈J
任意のr∈Rに対して
(rα)(1,1;1,1)∈J
となるので、
係数α,βはRのイデアルを作る.
しかしRは自明なイデアルしかもたない。
αが(0)に含まれている場合は
J=(0)となり、
αが(1)に含まれている場合は
(1,1;1,1)(1,0;0,0)=(1,1;0,0)
(0,0;0,1)(1,1;1,1)=(0,0;1,1)
がJに含まれていることに注意すると,
Jが(1,0;0,1)を含むことが分る.
よって言えた.